犬の急性腎不全 – 原因検索を忘れずに – その2

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次は、当院にて初期対応が遅れ、ワンちゃんを重篤な症状にさせてしまった症例です。

11月8日(約1ヶ月前)、2歳9ヶ月のワンちゃん(♂)が食欲低下を主訴に来院されました。
もともと食ムラがあり、食べ物の好き嫌いのあるワンちゃんなので、病的な食欲低下なのか精神的な影響なのか判別が難しい子でした。
聴診や触診を行うと、異常所見は確認されず、血圧も正常でした。
検診を兼ねて血液検査を実施しましたが、低血糖は無く、腎臓・肝臓にも異常は確認されませんでした。レントゲン検査でも異常は確認できませんでした。
そのため、少し経過観察していただくことにしました。

ところが、11月14日、自力で立つことが出来ない状態で当院に連れてこられました。
この数日間での変わりように驚き、再び血液検査を実施しました。

白血球数 20,300/μl
赤血球数 770万/μl
血小板数 31.1万/μl
血糖値 76mg/dl
BUN 140.0mg/dl
Cre 6.6mg/dl
総蛋白 6.8mg/dl
アルブミン 2.8mg/dl

食欲が無い子が急性腎不全に。
脱水している様子は無いので、心臓に何か起きたのかと思い、聴診すると明らかな徐脈
血圧を測ると、血圧70/43mmHg。いわゆるショック状態でした。
いくばくかの焦りを感じながら、徐脈をともなうショックの病態を頭の中で整理しました。
徐脈をともなうショックの病態の代表的なものは、

  1. 心臓疾患(心筋梗塞や弁膜症など)
  2. 副交感神経過反射(薬剤性や脊髄損傷など)
  3. ホルモン不足

1に関しては、このワンちゃんは心臓弁膜症は患っていません。
2に関しても脊髄損傷は無いし、薬物の服用歴も無いので、残るは3のホルモン不足。

ホルモン不足の疾患と言えば、「副腎不全」。
急いで、血液の電解質を測定すると、

Na 129mEq/l、K 8.3mEq/l、Cl 100mEq/l
Naの値が低く、Kの値が高い。Na/K比が15.5でした。

いわゆる急性副腎不全(副腎クリーゼ)が疑われました。
※後日、ホルモン検査結果が送られてきて、副腎皮質機能低下症であると診断されました。
心拍数を注意深く観察しながら、病気を見落としていた反省の思いが頭をよぎり、徹夜で治療と看病を行いました。
※高K血症は低K血症とともに致死的不整脈を引き起こす電解質異常なのです。

幸いにも、このワンちゃんが頑張ってくれたので一命はとりとめました。
そして2日後、元気に退院していかれました。
本当に、肝を冷やした症例でした。
あと1日でも診察が遅れていたら助からなかったかもしれません。ほんと、助かって良かった。


当院でアジソン病(副腎皮質機能低下症)の患者は2頭目です。
このワンちゃんも生涯忘れられない子になりそうです。
このワンちゃん、本日来院されましたが元気そうで、血液電解質の値も、
Na 142mEq/l、K 4.5mEq/l、Cl 109mEq/l
と正常値に落ち着いていました。

急性腎不全の症例に遭遇すると、毎回、ヒヤヒヤさせられます。
ブログで2回にわたり、急性腎不全の症例をご紹介いたしました。
言葉だけで病気の相談をされても、診察しないとコメントできないという理由を少しでも理解していただけると幸いです。
急性であっても、慢性であっても、腎不全には必ず原因があります。
その原因によって対処法や治療経過の判断が変わります。
そばにいるワンちゃんの様子が変だと思われたら、すぐにお近くの動物病院で診察を受けることをお勧めします。
そして、何か疑問や不安を感じたら、診察している主治医の先生に伺ってください。
返答がいただけない主治医であれば、大事な家族を託す動物病院では無いと早めに見切りをつけても良いのではと思います。

今日は少し大変な手術があったので、今夜は疲労困憊です。早く休みたいなあ。
でも今傍らに、猫伝染性腹膜炎疑いで点滴をしている生後4ヶ月のロシアンブルーちゃんがいます。
この仕事をしていると、ゆっくり休むことは難しそうです。